南米美術案内
− アンデスからのメッセージ (11) −
アンデス文明の多彩な美術を案内します (0)初めに/甦るアンデスの美術 (1)不思議な壺/チャビン文化 (2)リアリズムの時代/モチェ文化 (3)砂漠に咲く花/ナスカ文化 (4)海の道/ビクス文化 (5)湖の神話/ティアワナコ文化 (6)ゆるやかな国家/ワリ文化 (7)考古学者ができるまで/シカン文化 (8)黄金伝説/シカン文化 (9)黒の時代/チムー文化 (10) 個性派の生きかた/チャンカイ文化 (11) 衣装の意匠/チャンカイ文化 (12) 山の道/インカ文化 動物文様布 ペルー ・ チャンカイ文化 12世紀 |
衣装の意匠 チャンカイ文化(紀元1100〜1450年) |
帽子は、アンデス人のトレードマークだ。インディオの村では、男も女も、ほとんどの人が、色かたち様々な帽子を被っている。日差しが強く朝夕の冷え込む土地では、それは必需品なのである。 ところでこの帽子、各人が勝手なデザインを選んで被っているわけではない。材質や色、つばの大きさや全体の高さ、刺繍や飾りの有無で、その持主の出身地や社会階層などを、かなり細かいところまで知ることができる。白人の血が入り、スペイン語を話せる、といったことまでわかる。 帽子の習慣そのものはスペイン人から伝わったものだが(古代には頭帯や布の頭被りをした)、アンデスの人々は、そこに固有の意味や情報を付加していったわけだ。 アンデス社会において、服飾−−染織品--は、単なる防寒やおしゃれのためだけのものではなさそうだ。 南アメリカの布の発祥は大変古く、紀元前8千〜6千年の狩猟時代の洞窟から、植物の皮や葉脈を用いた繊維製品の断片が発見されている。これは初期の神殿や土器などが出現するはるか以前のことである。 その後、紀元前2千年頃には綿の栽培がはじまり、文様のある布が織られた。 紀元前5百年以降のパラカス=ナスカ文化では、獣毛も用いられ、染織の技術と表現は、世界的にも最高のレベルに達している。 こうした織物製作に対する飽くなき研鑽と愛着は、どこから発しているのだろう。 文字を持たなかった古代アンデス人は、紙ではなく布の上に、多くのイメージやシンボル、メッセージをちりばめて、子孫に引き継ぎ、交易を通じて遠方へ伝えていた。そうした複雑な意味の付与が、芸術性を高め。技術の発展をうながした、ということらしい。 染織は精神性の高い営みだったのだ。 12〜14世紀のチャンカイの遺跡からは、ほとんど降雨のない気象条件に守られて、膨大な量の織物が出土する。それらは、技術的にも美術的にも非常に多彩な展開を見せ、まるでアンデスの布の見本市のようだ。 綿や獣毛(アルパカ等)の繊細な糸を、植物性、動物性の微妙な配合の染料で染め、入り組んだ文様を何種類もの技法で織る。現代では絶対に再現できないものばかりである。 チャンカイ遺跡からは、20センチほどの布製の人形も出土する。着飾った人形たちは、車座になって酒を飲んでいたりする。彼らの声は聞こえないが,その衣装は、失われた時代の多くのことがらを語っているははずだ。 ※本稿は雑誌「目の眼」(里文出版)2001年10月号に掲載されたものです。 |
アンデスからのメッセージ
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