南米美術案内
− アンデスからのメッセージ (4) −

アンデス文明の多彩な美術を案内します
(0)初めに/甦るアンデスの美術
(1)不思議な壺/チャビン文化
(2)リアリズムの時代/モチェ文化
(3)砂漠に咲く花/ナスカ文化
(4)海の道/ビクス文化
(5)湖の神話/ティアワナコ文化
(6)ゆるやかな国家/ワリ文化
(7)考古学者ができるまで/シカン文化
(8)黄金伝説/シカン文化
(9)黒の時代/チムー文化
(10) 個性派の生きかた/チャンカイ文化
(11) 衣装の意匠/チャンカイ文化
(12) 山の道/インカ文化

人物象形壺
ペルー ・ ビクス文化
紀元前1世紀 ・ 高23.8cm
海の道
ビクス文化(紀元前500〜後500年)
 リマ市の中央銀行には、小規模だが粒のそろったアンデス美術のコレクションがある。特に、ビクス文化の土器を展示した一室は、見応えがある。人けのないその部屋に入ると、一瞬、夢の世界の生物に取り囲まれたような気分になる。
 ビクスの土器は、砂混じりの粗い粘土を用い、人物や動物を大胆にデフォルメした造形を得意とする。そのプリミティブな力感と飄逸な表情は、独特のものである。

 ビクス文化は、現在のペルーの北海岸、エクアドル領に近い地域に、かなり長い期間存在した。しかし、その詳細は、今のところ明らかにされていない。土器の様式には、チャビン、モチェなど、その発掘地点より南方の文化の要素も認められるが、同時に、北のエクアドルの影響も濃厚である。
 ビクスは、北アンデスと中央アンデス地帯の中間に位置し、その仲介者としての役割を担っていたと考えられる。具体的には、北方で採れる貴重な貝類、サンゴ、エメラルドなどの、南方への搬送。南から北へも、色々な物品が運ばれたことだろう。この交易には、葦で造った船が使われていた可能性もある。

 ところで、ビクス文化にも影響を与えたエクアドル沿岸地帯には、バルディビアと呼ばれる非常に古い文化があった。ここから発掘される土器は、紀元前3000年まで遡ると解析されており、これはアメリカ大陸全体でも最古のものである。
 面白いことに、この古い土器の発生に、日本の縄文文化が関っていたという説を唱える学者がいる。バルディビア土器の装飾文様のモチーフや技法に、縄文土器のそれと、非常に多く類似する点があるというのだ。しかし、縄文の漁民が太平洋を漂流の末に南米に到達したというこの説には、かなり無理もあり、一般の認知は得られていない。

 では、古代のアジアと南アメリカに、海を越えた交流は、まったくなかったのか?
 そもそも、アメリカ大陸原住の人々は、人類学的にはモンゴロイドに属す。今から、3万〜2万年前に、アジアから極北のベーリング海峡を渡っていったとされている。ところが、最近の研究で、アンデス古代人の便の化石に含まれるアジア起源の寄生虫の一種は、低温に弱いため、人類と共に寒冷地を渡ったとは考えにくい、ということがわかってきた。すると、この寄生虫の存在は、南の海洋ルートによる人の交流を示唆していることになる。

 古代人の行動範囲は、海上の道を利用して思いのほか広かったのかもしれない。

 ※本稿は雑誌「目の眼」(里文出版)2000年8月号に掲載されたものです。

 アンデスからのメッセージ
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